一国二君

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景虎は上杉家にとって所詮は余所者、それおろか簒奪者へと成ろうとしている。 しかし彼とて短い間ながらも上杉家の中枢に参加しこの国を見てきたつもりである。そして過程は過激なれど、偏に越後を安定させる為だという事も理解しているのだ。 「何もせずに捨てるのかッ!?民も故郷も何もかもをッ!!」 故に叫ぶ。だったら今までの犠牲はなんだったのか、曲がりなりでも後継者なら払った犠牲を挽回しようと考えないのかと。 この言葉に顕景の唇は震える。だが、口が開くよりも先に景虎の顔面を一発殴り返し手を離させた。 「だったら、我はどうしたらいいッ!?この国は謙信様の武だけで不満を押し止めていた事ぐらい解っているでしょうッ!!」 そして顕景は声を大きくして景虎に問いかける。 元々、越後という国は国人衆の力が強い国である。故に謙信が武による家内統一を果たすまで内乱が続く地であった。 然れど謙信は死んだ。顕景は彼の代わりを務めるにはあまりに若く、再び国は内乱に陥るのは眼に見えている。だからこそ民兵強制徴集や商船を襲ってまで勝たなければならなかった。 「どうしたらいいって?一人で考えて解らないなら家臣に聞けッ!!それでも解らないなら民にも聞けッ!!」 お返しとばかりに景虎は再び殴り掛かる。そして双方、刀など投げ捨てて喧嘩が起こってしまう。 思わぬ事態に家臣たちは動揺してしまうが、内心尤も動揺していたのは景虎本人であった。 さっさと殺してしまえば良いものの、何故に相手を説得するような事を言っているのか、頭の考えよりも先に本能が叫んでしまっている。 そしてこの期に及んで非情に成りきれない自身を鑑みて、大名の素質は無いのだろうと。 だが逆に顕景は今までの行動を顧みて、その無いものを持っており、自身が補助すれば必ず越後は立て直せると。 「顕景ッ!!その為にはお前が上杉を継げッ!!そして拙者が支えてやるッ!!」
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