一国二君

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景虎は困惑してしまう家臣たちの肩を宥めるように二、三度叩く。 「まぁまぁ、考えてもみろ。拙者は親族衆とはいえ所詮は七男、言っちゃ悪いが立身に期待はできんぞ」 「働き次第で景虎様が越後に入られる可能性は十分にあります!!」 「北条が治めたら越後は十中八九荒れるぞ?そんな所に力不足の拙者が入る場所などないぞ」 「しかし、これは北条家への謀反では……」 謀反という話を言いきられる前に、肩に置いていた手を勢いよく口元に上げて止めさせる。 「ものは言いようだ。北条との貿易だって向こうにとって多大な利であるぞ?それに顕景が君主なら拙者は宰相、国の二番目だ」 「うっ、そういう言い方は卑怯です」 国で二番目という言葉に家臣たちも心が揺さぶられる。ならばその直臣である自身は一躍に家老まで成れる事は間違えないからであり、この甘い誘惑に揺れに揺れそして最後には折れて首を縦に振った。 家臣の合意を得た景虎は振り返り、改めて顕景を見据えて口を開く。 「此方の覚悟は整った。お前の覚悟は如何か、顕景」 「……景虎殿、何故に我などに賭けるのだ」 この問いかけに対して言葉を選ぶように唸る。 彼から見ても顕景は愚直なほどに越後の為に動いているが空振りが多い。またそんな危い姿が故に眼が離せず、あらぬ方向へ行ってしまわないかと肝を冷やしてしまう。 「ほっとけないからだよ」 だからこそ景虎は笑い、そのあまりに単純な答えに顕景は瞠目して驚くも釣られて笑みが零れる。 「ならば、また我が下を向いていたら殴ってでも起き上がらせて下され。宰相殿」 「御任せを、君主様」 そして今この瞬間、上杉顕景が名の元に上杉宗家十七代目として家督を相続する。
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