一国二君

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家督相続内乱は僅か一刻足らずで終結を迎えた。そして当主に顕景、宰相に景虎が就いたのだが山積みとなった問題は依然として残っている。 現状の上杉家は控え目に言っても滅亡寸前である。 織田家、武田家、北条家の大大名三家が越後を征服せんと兵を進めておりこれを対処しなければいけなかった。 「今は9月に入った、各地に派遣している全軍を春日山城へ戻らせて冬まで籠城する他あるまい」 「うむっ、急ぎ伝令を送れ。敵が現れる前に籠城支度を整えるぞ」 一発逆転の野戦を狙おうにも敵は三方から来るために狙いなど定められず、否が応にも籠城しか選択肢がない。 そして誰もがこの籠城で上杉家の命運が決まると考えている中、他所では想定外の奇跡が度重なっていた。 まず目と鼻の先にいる武田家だったが、兵糧問題諸々により再攻撃に五日の時を要した事で、各地の上杉軍は余裕を持って帰還を果す。 次いで織田家であるが、手取川で追撃を行うも西の情勢が不安定な中で必要以上に戦線が延びるのを嫌がり越中で進軍を停止。 更に北条家は、奇しくも君主である北条氏康が前の時代と同じ年月に寿命を迎えようとしており、危篤状態に陥ってしまいそれ処ではなくなる。 この情報は援軍不可能という内容で風魔衆が伝えに来て、本来なら怒る立場の景虎は父の危篤に心を歪ませながらも利用できると踏む。 そして敵は武田家の一方に絞れた故に、顕景と景虎の仲違いという噂を流して誘きだし奇襲を敢行せしめた。 結果として、油断しきった武田軍は上杉軍に惨敗。勝頼も何とか落ち延び塩田城まで慌てて退く羽目になってしまったのである。 斯くして上杉家は奇跡の連鎖により、何とか越後を守りきった。
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