汝は我

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景勝は堂々と入室し、光秀と秀満は頭を下げる。 「苦しゅうない、面を上げられよ」 許可と同時に二人の顔がゆっくりと上がる。そしてまず秀満が眼に入ったのは、景勝よりも先に光秀の顔だった。 お手本のような満面の笑み。見ていて清々しい気分になる青空のような笑顔である。 外の兵には毅然にして強者たらんとする振る舞い、交渉対象にはこの姿。伊達に面倒この上ない公家衆の相手で手慣れているものだ。 「景勝様……でっ、御座いますか。顕景から名を改めたのですか」 「あぁ、新当主と共に国も生まれ変わるとしてな」 「いやはや、何物にも屈さぬ心意気を感じる良き名かと」 光秀は顕景から景勝に名を改めた処を持ち上げ、誉められた本人は満更ではないように笑みを溢す。 そして良い空気が出来上がりつつある中、光秀から本題へと切り出した。 「さてっ、景勝殿。和睦の件ですが織田家は心から受け入れる姿勢にあります」 「そうか、互いの理解を深め合えて喜ばしく思う」 現状の織田家は西へと標的を定めている。故に取り合えず東に一段落を付けたかった。 特に此度の一戦で越中まで得るも、ここが戦地になると北アルプスが障害となり救援も碌に送れない為に、上杉家との和睦は何としても必要である。 「……ですが、些か問題もありまして景勝殿にはその解決を手助けして頂きたく」 「ほぅ、問題とは?」 当然、光秀とて和睦の意向を曲げる気はない。だが一つ引っ掛かるような言葉も告げ、景勝の眉が微かに動く。 「現在、我らが統治している登能及び越中ですが、その民が打倒上杉と声を荒げておりましてな」 そして笑みを絶やすことなく苦言を吐き付けた。
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