汝は我

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光秀はどうあろうと手ぶらで帰る気は無い様子である。だが相手がその気なら、若き当主たちにも考えがあった。 「なるほど、織田殿の懸念は痛いほど感じ入った。だが一揆衆が越後に押し寄せてしまえば、此方も武田家と北条家が越中をどうするか想像もつかぬな」 「……このッ」 そして景勝の放った言葉に光秀の動きが止まり、秀満に至っては思わず声を出してしまいすかさず手で口を覆う。 上杉家が一揆衆の追撃に勢い余って越中に攻め入るっという言い方ならまだ理解できる。しかし出てきた名は武田家と北条家であった。 「御存じない様なので教えてやろう。我が上杉家は武田家、北条家と和睦を済まし三国同盟を結んでいる」 やってくれたな。光秀は表情なく心の中で吐き捨てる。 この若造二人は大国に囲まれているという最悪の状態を最大限に利用しようとしていると。 上杉家は青苧を利用した繊維品や鉱山物質、そして塩などという他国にない特産物を多く生産しており、これを利として同盟に取り付けたのだろう。 だが恐らくこれだけでは同盟の締結は難しい。故に両大国にも先ほどのように鎌をかけたのだ。 武田家には景虎をちらつかせて北条家が後ろ楯だと匂わせ、逆には財政難の武田家に貿易の利を持って後ろ楯となっていると匂わせる。小賢しい事をしてくれた。 しかし同時に、両国とも背後の憂いを断つことができるのと貿易の利があるのは間違えなく、同盟にこじつけて見せたのだと理解する。 そして今回もまた、例のごとくに織田家に利と脅しを使い上杉家は損害なく同盟を勝ち取らんとしているのだ。
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