汝は我

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「賠償という形に不満があるならば、越中の共同整備なら如何か」 光秀は改めて景勝を見据え、そしてただ引き下がる事を良しとせずに代案を提示する。その内容は、織田家と上杉家による共同の街道整備であった。 あくまでも若当主二人が拘っているのは上杉家が今後中立国の立場を確立するべく、格下として扱われず他国に対して毅然といた対応を示すことである。 ならばこそ、建前は対等な立場という共同作業での越中を復興しろと言う。 「ちなみに費用は7:3で」 「それは良い、織田家が7持ちか?」 「此方が3で御座います。寝言は寝て言って……ごほんっ、失礼」 そちらがその気ならと接待顔を捨てた光秀は鼻で笑いながら挑発してみせる。 「5:5だ」 「7:3」 「……6:4」 「7:3」 景虎は横から喰いかかるように提示額の引き下げを駆け引きするも、光秀は一切として耳を貸さずに同じ言葉を繰り返す。 そして挑発に挑発を重ねる姿に景勝は眉間に深い皺を刻み付けながら、ついに立ち上がってしまう。 「思い上がるなよ、老い耄れがッ!!我らが戦を起せぬと高を括っておるかッ!!」 「いいや、できやしない。確信を持って言ってやろう。貴様らは戦などできやしない」 だが目の前で憤慨を露にする姿など、喚く童を嘲笑うように上杉家は戦が出来ないと言葉を濁す事無くはっきりと言い切った。 景勝はこの様子を見て刀に手を掛けたが、景虎はすかさず裾を引っ張り密かに止め、首を小さく振り眼を細める。これを見た景勝は深いため息を吐き捨てながら静かに座った。 光秀の言う通り、実際に現状の上杉家は戦を起すわけにはいかなかった。謙信が失落させた貿易再開のために多額の投資が必要となり、同盟国も戦費が重なっており迎え討つならまだしも、上杉側から勝手な都合で開戦などできないのだ。 そして歯を喰いしばり握った刀を床に突き立てる。
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