汝は我

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「光秀様、お見事で御座います」 春日山城を後にした秀満は満面の笑みを浮かべながら、横に馬を並べる光秀に声を掛ける。 その後の交渉は、上杉側から開戦が出来ないという弱みを付け込んで費用分担織田家3上杉家7の有利な条件と共に和睦を取り付けた。 信長に課せられた最低限の要求と共にそれ以上の成果を成し遂げてみせた。結果としては上出来である。 「ハハハハッ、それにしても最後に景勝の面見ましたか?最初は小生意気な小僧だったが、顔を真っ赤にしていい面してくれましたな」 そして一段落終えた秀満は上機嫌であるのだが、対称的に光秀は上の空で上杉の城下町を眺めている。 「……?如何なさいましたか?」 その様子に疑問を持ち首を傾げる。十分な成果を納めたというに何故こうも腑に落ちないという表情をするのかと。 「左馬助、君はこの現状をどう思う?」 「現状……ですか?この城下町ので御座いますか?」 その言葉に秀満は辺りを見渡す。 春日山城の城下町、とてもではないが栄えているとは言いがたく本拠地と港町という観点から見ても錆びれている。 「謙信の行き過ぎた勢力拡大による弊害だ。いくら領地が広がろうと戦により民の心は窶れ国は荒れる典型的な例だ」 「……はぁ」 「考える事を止めるな、左馬助」 外交を終えて浮かれてた秀満だったが、曖昧な受け答えする姿に叱咤されてしまい頭を掻く。そして表情を覗きながら改めて口を開いた。 「あー、そうですな。謙信が暴君だった……というよりは化したでしょうか」 「その心は」 「謙信の風評は義将という形でした。まぁ、真意など解かりませぬが、少なくとも他国の為に多く戦った事は真実です。しかし呉の孫権然り隋の煬帝然り名君が暴君に堕ちる例はいくらでも御座います」
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