汝は我

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秀満の言葉に光秀は少し考え込み頷く。 「つまりは人はいつまでも正気を保てるとは限らないっという訳か、左馬助」 「大名が暴走すれば家臣が止める。しかしそれが能わなければ亡国へ足を踏み入れるかと存じます」 少なくとも昔の謙信は他国の為に数多の戦場を駆け義将と名を馳せる。だが急激な他国侵攻に方針を変更し、領土は拡張されるもそれを統治する人材もなくば知恵もない。故に生むことを抛棄し有るものを奪うだけの国廻しをせざる負えなかった。 当然、秀満の言う通り諫める家臣がいれば保てるやも知れないが、あくまでも理想の域をでない事である。 「ならば信長様が意に反する行いをなされたら、面を向かって諫言を呈せるか左馬助?」 「それは……首を刎ねられそうです」 自分で言ったことではあるが、自信を持って頷く事ができなかった。 君主に堂々と諫言を言うは忠臣たる務めではある。しかしそれが正論であろうとも常にそれが執られるとは言い難く、むしろ疎まれる可能性の方が極めて高い。故にそれが正しき道を示していても蟄居や処断を受ける事もあり簡単にはいかないのだ。 そして謙信は暴君と化し、それを恐れた家臣は口を出せずに必然的に独裁体制へと傾く。 「現状で暴走した君主を止める手立ては下剋上の他ない。でなくば最も苦しむのは民であり、彼らが真綿で首を絞められてこの春日山のように無に帰するのだ」 この話を聞いて秀満は言いたい事は理解できる。だが理解できてしまうからこそ微かに眉を動かす。 「それで……光秀様は如何なされたいのですか」 問いに対し光秀は間を置いて口を開く。 「ならばこそ、武士という時代は終わらせるべきではないか」
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