汝は我

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秀満は光秀の言葉に対して眼を点にして立ち竦んでしまう。そして何度か口を開くも声が出なく吐く息だけが零れ落ちる。 揺れる瞳に対して相手の眼は真っ直ぐと迷いなく前を見ており、これに更なる動揺が走った。 「……そっ……それは、如何なる……」 「考えてみよ、遥か昔より世襲による君主の座はさも当然のように継がれ続けられた。しかし一大勢力を築き上げるは殆どが平氏然り源氏然り足利もまた然り、祖たる者だけの功績が多い。何故に偶然その子として生まれただけでふんぞり返るか」 鷹の子は鷹とは限らない。現に平清盛は一代で日ノ本有数の勢力を築き上げるも、彼の死後は音を立てて瞬く間に平氏は没落した。また室町幕府を築いた足利家は早くから財政難に陥り、更に次期将軍を籤引きで決めようとする無責任さまで露にし今や100年おも続く戦国時代を招く。 故に光秀は口に出して言う。武士の時代に終止符を打つべきだと。 「御待ちを……御待ち下され!!その言は単なる理想を語るだけでは留まりませぬ!!むっ……む、謀反と取られます!!」 だがそれ即ち、織田家に牙を剥くとも取れる発言である。誰ぞに聞かれでもしたら一大事であり秀満は慌てて止めに入った。 「光秀様、光秀様は御疲れなのです!!坂本城へ帰られたら粽でも食されたら如何ですか!?此度の報告はこの左馬助にお任せ下され!!」 「……わかった。少し時間を置こう」 聞くに堪えない秀満は会話を終わらせて眼を背けるように前を見る。そして光秀は静かに目を瞑り黙す。 胸の内からふつふつと湧き上がるこの感情、これは正義感故か狂気故か。未だ解からないそれに身を焦がしながら。
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