汝は我

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「ここが築城場か……ふむ、中々面白いやり方をされている」 光秀は琵琶湖の北部に位置する今浜の地と築城の風景を見て思わず声を溢す。そして辺りをじっくりと観察しながら吟味する様に練り歩いた。 「これは明らかに敵を防ぐことではなく、商業の発展に重点を置いたものですかね」 「僅か一ヵ月でこの地を最前線から商いの中核へと変えてみせるつもりか」 当時の城は防御面を重視して山の上など険しい場所に築城され、住む場所は他に築き別々に機能させるのが一般的である。しかし秀吉の長浜城はその例を無視して防御面は城内に琵琶湖の水を引き入れるだけの必要最小限に留め、城下町や港といった施設を城の近くに築き商業の廻りを円滑に行わせるつもりなのだろう。 今浜の地は交通の要所としても重要され、琵琶湖の利権を最大限に活用でき、竹生島といった資材類がある。百姓上がりと思っていたが、それらを一切として無駄にさせず従来の常識を捨てた新しい城造りに驚嘆した。 「おやっ?そこの御仁はもしや明智様で御座いますか?」 「貴殿は確か、秀吉殿の弟……」 「羽柴秀長で御座います」 色々と見て廻っていると、秀吉の実弟たる秀長が建設の作業中だったのか両手一杯に地図を抱えながら声を掛ける。 「これは秀長殿、お久しゅう。時に秀吉殿とご挨拶をしたいのですが何処に居られますか?」 「兄上で御座いますか?それなら、先ほどあの辺りで木材を運んでおりましたが」 「運んで?」 そして秀長の指差す先には、城主の羽柴秀吉本人が何本もの大きな角木を肩に積み運んでおり、炎天下の中で大量の汗を流しながら土木作業に勤しんでいたのであった。
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