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光秀は視界に入った光景に眼を疑った。秀吉が周りに負けじと誰よりもきびきび動き作業に勤しんでおり、城主であるにも関わらず人々に交じって何をしているのかと驚く。
「なっ、秀吉殿!?」
「あいや光秀殿、いらっしゃっておりましたか」
詰まりながらも叫ぶ声に気が付いた秀吉は、額から流れる汗を無造作に手で拭いながら一礼する。
だがそんな事よりも、何故に城主自らが土木作業に勤しみ、更に周りの家臣や民たちも何食わぬ顔をしており誰も疑問に持たないのかと困惑した。
「……?何をそんなに驚いているので?」
「何って……貴殿は城主であろう、何故そんな下々の仕事など……」
「御心配なさらず、功が生じる普請は家臣に命じ済です。これは手が空いているから自分からやっているだけですので」
「そういう意味で聞いたのではないのですが……」
話を聞けば秀吉本人すら、さも当たり前だといった様相を示し、本気なのかと思わず頭を掻く。
「出すぎた言だと思いますが、城主たる者が易々とこの様な作業をするは軽んじられませぬか」
「……そうなのですか?」
秀吉の行動は、威厳が損なわれ下の者に舐められてしまうのではないかと忠告するが、相も変わらず首を捻る。
「某は百姓上がり故に勉学不足やも知るませぬ。然れどもこうした方が民たちの顔も見れて声も聞ける故に捗りますよ」
そして屈託のない笑顔で返され、純粋すぎる姿に秀満は頭に花でも咲いているのかと若干引いてしまった。
統治者であるのなら、民に舐められるのは絶対に避けたい要因である。でなければ付け上がられるばかりであり、百害を生む要因となるからだ。
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