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「折角です、少し歩きながらお話ししますか?御案内しますよ」
「……あぁ、御願い致します」
「それでは、皆に小休憩を命じますので」
他の現場を見回るついでに案内を買って出た秀吉は、作業員に一旦休憩命令を出してその場を後にする。
そして道行く者たちに笑顔を振り撒きながら手を振り、大勢の民やら家臣やらも応えるように声を掛け頭を下げる姿が窺えた。
「お殿様ー、さっき野菜を収穫したんですが如何ですかー」
「おぉ、良き艶の胡瓜よの源三。後で城に持ってきて皆で食べようでないか」
民たちは篭一杯に収穫した野菜を敷き詰めて抱え持ち、秀吉は嬉しそうに胡瓜を一本取ってかじりつく。
「秀吉様ぁ、この前は畑弄りを手助け頂きありがとうごぜえました」
「うむ、藤太郎は前の戦で手を怪我してしまったからな。困ったことがあったら何時でも言いなさい。然れど浮気で小梅を困らせぬなよ、お寧にバラされてたぞ」
「うぇっ、これは手以外も痛いですわい」
少し歩けば次から次へと秀吉の元に人が集まりあれやこれやと賑かになり、案内どころではなくなる。
それに対して、一人一人親身になって話を聞くものだから歩みがまったく進まず後ろで眺める二人は唖然した。
「秀吉殿はいつも民とこんなに話を?」
「えぇ、堅苦しいのは苦手でして」
のほほんと笑みを浮かべる姿に秀満は、この人は既に手遅れじゃないかと口角が引き攣るが、横に並ぶ光秀は同時に疑問が浮かぶ。
「……秀吉殿?先程から殆どの者を名で呼んでおられるが、まさか記憶しておられるので?」
「それはまぁ、話した事がある者なら」
「家臣だけでなく民すらも?」
「当然では?」
その答えに冷や汗が流れる。この短時間だけでも数十人の者とすれ違い名を呼んでおり、今まで会っただけで名を記憶しているのかと。
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