汝は我

21/21
前へ
/761ページ
次へ
太古の昔より人の上に人が立ち、その時勢その流れの秩序たる政を創立した。 然れども欲深き統治者は秩序を私物化し、それが原因となり新たなる乱世が生まれてしまう。これは日ノ本の歴史其の物と言っても過言でなく避けるに叶わなかった事柄である。 つまり日ノ本が現在まで続く世を否定しているのだ。 だからこそ、今の日ノ本に蔓延せし古き秩序という名の癌を取り除かなければいけない。その為には、その癌が悪しきものだと民本人が理解出来なければならず、培う環境が必要不可欠である。 己が考える意思もなく、己は無関係を装い甘い蜜には群がろうとする事を改めさせ、民が自ら立ち知るべくして知り進歩させる秩序が望まれるのだ。 つまらぬ血統が統治するのではなく、学を携えし民たちが統治せしめる。それには武士も公家も過去の名残として打ち捨てる。 それ即ち、民による日ノ本への下剋上にして新たなる秩序の打ち立てとならん。 そして改めて光秀の心が叫ぶ。 ならばこそ、不要である。絶対的な存在にして独りが国を廻す織田家は不要である。 織田家は類い稀なる存在である。しかし、その奇跡が信長に次いで続く事は確約されない以上、戦乱の芽としかならないからこそ摘むべきなのだ。 これは心に過る一抹の陰りに非ず。 聞こえし汝の叫喚は本心にして我が叫喚である。滾りし我が狂気にも似た感情は本心にして汝の感情である。 何を偽る事があるか、汝は我であり我は汝であるのだから。 汝は今の日ノ本に謀叛せし者。我は未来の日ノ本に奉ずる者。 我が名は明智十兵衛光秀であり、それ以上でも以下でもない。
/761ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4492人が本棚に入れています
本棚に追加