廻りし歯車

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森家の要請を受けた信忠は即刻それに応えた。 信忠の下した命は、丹羽長秀を徳川家に派遣して真意を問答する故、長可はそれに随行と同時に発言を許可するとの内容である。 これは実質的に、主家たる織田家が全面的に支援するので森家は思う存分にやれと言っていると同じであり、この破格の沙汰に長可は手を振り上げて喜んで一層の忠節を誓う誓書まで提出するほどだった。 この件は、徳川家との同盟にも大きく影響してしまい、家内ではいくら家臣とはいえ下手に森家へ肩入りは控えるべきではないかと懸念の声も少なくなかったが、その中で森家以上に功を重ねた者はいるかと言い黙らせる。 森家は可成が尾張統一前から織田家の一翼として多大な功績を挙げている。近年も宇佐山城にて10倍の数である朝倉軍を防ぎ遠征中だった信長の背を守り、また信忠の躑躅ヶ崎館襲撃の従軍、朝倉景鏡や赤尾清綱の首を挙げるなど十分なものであるのだ。 そして巻き込まれた形となった長秀であるが、要約すれば彼が息巻く長可を制しながら徳川家との間に立つという難しい立場となる。しかも信長から安土の地に城を建てる普請を任されているという多忙の身であったのだが不満を漏らす事はなかった。 「うぅ……よかった……信忠様がまた突撃を命じないでよかった……」 むしろ信忠が岡崎城へ突撃しなかった事に感動してしまっており、そんな様子を見た家臣は気の毒な考えに同情してしまう。 ともあれ長秀は長可を引き連れて徳川家康が居る浜松城に入城。同時に徳川家臣は見せつけられた姿に唖然とする。 長秀は通常の正装を身に纏っているが、後ろに控える森家の兵は皆揃えて具足を着込んで今すぐ事を構えんとする姿勢だった。 そして使者が残した血染めの遺書を家康に提出し一歩も退かんとする。
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