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遺書を手に取った家康は、血染めのそれを静かに読み開く。
「仔細承知致しました。よろしければ、この者の墓に手を合させて頂きたい」
視線を逸らす事無く真っ直ぐと長可を見据えて、黙祷を捧げたいと発言し徳川家臣は騒めいてしまう。
「なぁッ!?お待ち下され家康様ッ!!」
「そうですっ!!下々のつまらぬ諍いに殿自ら行かれる必要などありませぬ!!」
徳川家臣の言葉に長可は歯軋りを立てて拳を固く握りしめる。だが口を開く前に家康が鋭い目付きで彼らを黙らせた。
そして家康は約定を守り森家領内に赴き、長可も最大限の持て成しで迎え互いの溝を埋める。
この話を聞いた門番は沙汰が下る前に自害した事により、織田家と徳川家はこれ以上に事を大きくさせずに終えさせた。
事を終えた後、家康は浜松城へそのまま帰らずに問題の起きた岡崎城に足を踏み入れる。
「……これは、父上。わざわざ織田の所へ行かれたそうで」
「まるで他人事だな、竹千代」
岡崎城に入ると、すぐにとある男と対面する。
その竹千代と呼ばれる男、家康の嫡男にして徳川家次期後継者たる徳川信康であった。
「岡崎の門番はお前の管理化である。他人に全ての罪を背負わせ自身は知らぬ顔など美しくないぞ」
「ふっ、何が美しくないですか。織田の犬になるのは美しいと?」
だが信康は家康の言葉に五月雨の様な詰めたい眼と共に唾を吐きかけるが如くに言う。
「何が織田家か……何が信康か……忌々しい信の名が父上の康の名より先に入るなど虫酸が走る」
その言葉に家康はただ黙し、信康は感情に任せて舌を打ち言葉を続ける。
「見ていてくだされ。父上が今川家からの呪縛を解き放たれたと同じように拙者も必ずや……」
そして信康は刀を強く握りながら呟く。
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