廻りし歯車

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乙御前釜を後生大事にしまう秀長を見て、秀吉は思い出したように懐から一通の文を取り出して孝高に手渡しする。 「そいえば信忠様からの書状も来てたんだけど、別所が裏切るだろうから細心の注意を払うと同時に必要なものがあったら言えってさ。半兵衛と官兵衛はなんか必要なのある?」 「……はっ?信忠様が……はぁっ!?」 秀吉の言葉に眼を点にした孝高は、恐る恐る書状を開いて確認すると羽柴軍に服従した東播磨の一大勢力たる別所家は裏切るだろうと忠告した内容であり、更にその本拠地である三木城内に内通者の潜伏も済ましているとまで書かれている。 前の時代では、別所家が元々草履取りから成り上がった秀吉の下にいる事が不満だったのと主君の別所長治の妻が、織田家と敵対する波多野家が実家だというのも相成り反乱を起こしていた。 この反乱により羽柴軍は播磨で包囲され孤立するという窮地に陥る事も知っていたからこそ予防線を張り、そして予測通りにこの一ヶ月後に別所家は急遽反乱を起こすものの三日で鎮圧され一族は処刑される。 半信半疑だった孝高は、これに良い意味で震え織田家への忠節を確かなものにした。 だが、信忠の心中にはまだ心配事があった。それは前の時代で同じく謀反した松永久秀が未だに裏切っていない事である。それどころか、三好攻めを命じられて淡路島を制圧し四国攻めも着々と進めており普通に忠臣のような働きだ。 だが少し考えてもみれば、前の時代で久秀が裏切ったのは上杉謙信が健在で在り、更に別所家の裏切りと毛利家の羽柴軍挟撃が上手くいっていたからこそであるので現状の織田家を見限っても旨味が少ない。 信忠の本音をいえば、いつ裏切るかもわからない者など早く敵味方をはっきりさせたいものだが一応は良しとする。
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