廻りし歯車

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1577年5月、西部戦線では順調に事が運ぶ中で東部戦線にも動きが起こる。 それは武田家が本拠地たる躑躅ヶ崎館にて多くの家臣が並び連ねていた。武田家が誇る馬場信房、山県昌景、高坂昌信、内藤昌豊の武田四天王。更に武田二十四将も居り、主要な者は揃い並ぶ。 「御屋形様、織田家が播磨及び但馬を平定致しました。次いで毛利家との衝突は必定でしょう」 「改めて問う、上杉と北条は如何に」 「北条は佐竹と里見に掛かり、上杉は中立に拘るあまりに北へ眼を向けている様子で」 男の問いに武田家臣は意を決した表情で応え頷く。 「六年という月日は我らをより一層として強くさせた。去年は父上が落とすに叶わなかった高天神城を陥落させ、北条と上杉による同盟を成し遂げた。兵は数を増やし尚且つ質を上げた。武具を磨き兵站も整えた」 その言葉に家臣は黙し、思わず腰に携える刀を握る手が強くなる。 武田家とてこの六年間で何もしていなかった訳ではない。上杉と北条の同盟を確かなものにして後顧の憂いを断ち切り、織田・徳川家の合わせ十八の城を攻略していた。 更に信濃反乱の折に推し進めた内政改革を続け、前回の西進の反省点を生かして国力も十分に潤っている。 「諸君、我らが信玄公は六年前の西進を志半場で終えざる負えなかった。されども時は来たれり、これは先代の無念のみならず甲斐武田家四百年の悲願を果たす時である」 「さすれば、御命じ下され。家臣一同は命を待っています」 「武田勝頼が命ず。東海道を四つ割菱の旗に覆い、京に歓声を打ち立てよ」 「御意、我ら武田軍三万。風林火山の旗の元、楯無の威光の元、勝頼様の名の元、出陣致します」 そして甲斐武田家二十代当主、武田四郎勝頼は号令を下す。命運別ち全てを決する号令を。
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