決別

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織田家の本拠地たる安土城。かの城に織田信長並び織田信忠を始めとする織田家臣は、鋭い目付きで一人の使者の言葉に耳を貸していた。 「武田軍が2日前に長篠城を包囲ッ!!その数、凡そ三万ッ!!織田殿が毛利家との戦の最中とは重々承知で御座いますが……何卒……何卒、救援の兵をッ!!」 その使者とは徳川家臣であり、彼の口から出た内容は武田軍が再び大規模西進を開始し、徳川領である遠江の長篠城が攻撃を受けているとの由であったのだ。 この報告に信忠は息を呑む。この流れなら前の時代でも行われた長篠の戦いと同じである。かの戦いは織田・徳川と武田との間で繰り広げられた一大決戦であり、これに敗れた武田家は衰退の道を歩む事となる。 しかし話を聞くに、前の時代では武田軍の兵力は一万五千であったのだが、此度はその倍の三万を動員しているという。 「大殿、浜松城は三万とはいえ一月は優に保てる筈です!!まず北陸方面軍と中国方面軍の兵力を鑑みて援軍を組み立てるべきです!!」 「なっ、御待ちを!!浜松城は何とかなっても長篠城は一溜まりもありませぬッ!!」 織田家臣の一人がひとまず長篠城は見捨て浜松城で敵を防ぎ反撃に移るべきであると発言し、それに徳川家臣が慌てて横から止める。 「そうですな、毛利家との戦も佳境に入り上杉はどう動くか解からない。長篠城の者には悪いですが慎重に事を運ぶべきです」 「何という事を……織田は我ら徳川を見捨てるかッ!!今まで誰のおかげで武田と大きな戦が無かったと思っているッ!!」 「えぇっい!!黙れ黙れ!!勝手に話を進めるな!!」 話しがひとりでに歩いてしまっている様子に、流石の信忠も苛立ちのあまりに声を荒げてしまう。
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