決別

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1577年6月、信忠を総大将として織田軍総勢三万が徳川家を救援すべく出陣した。 率いし武将は、丹羽長秀、滝川一益、佐久間信盛といった家老を始めとし、森長可、河尻秀隆、堀秀政、金森長近、池田恒興等々の織田家が誇りし優秀な家臣も従軍する。 そして家康が待つ岡崎城に入城し、この大軍を眼にした徳川兵は腕を振り上げて歓喜の声を挙げた。 「お久しゅう御座います、家康殿」 「これは信忠殿。此度の援軍、まことに痛み入る」 岡崎城に入るとすぐに信忠は家康と対面すし、二人は手を取り合って固く握り合う。 その後、お互いに時が惜しいことを理解している為、すぐさま家臣に地図を開かせて軍評定を行う。 「武田の動向は教えて頂けますか?」 信忠の言葉に酒井忠次が前に出て地図に指を差す。 「十日前、我ら徳川の長篠城が武田軍三万に包囲され申した。城兵は五百人なれども未だ落城の様子はなく援軍を待ち望んでいる次第に」 「……寡兵でそこまで耐えられていますか」 忠次の説明に地図を見ながら信忠は息を呑む。 長篠城はいくら周囲を谷や川で囲まれて攻めにくいからとて、所詮は四方2町(約240m)足らずの小城の上にたったの五百人。十日も耐えていられる筈がない。 つまりはこの長篠城攻めは、あくまでも織田家を釣り上げる為の餌だと理解する。 今の織田家は日ノ本に於いて最大の軍備と富を所有している。だがしかし、同時に敵も多く絶妙なバランスで成り立っているのだ。 武田家はこのバランスを打ち砕き、四方の敵を扇動しようとして織田家を叩く機を創りあげる算段であろう。
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