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織田家は勝てる戦を創り被害を最小限に留めて戦うのを得意とする。
故に武田家は徳川家を使い、相手が無視できないように長篠城を生かさず殺さずにしているという事だ。
つまり勝頼は野戦による決戦を望んでいる。数万対数万の人命がぶつかり合う全てを決する一戦を。
敵の意図を理解した信忠は小さく深呼吸して地図のとある場に指を伸ばす。
「家康殿、敵を迎い討つべく設楽ヶ原に陣を張りませぬか」
「設楽ヶ原か……陣を張るには良き立地であるな」
「我らは陣を造る丸太を多数持参しております。そこに柵の類いを打ち立てましょう」
信忠のいう場所は設楽ヶ原。かの地は小川や沢に沿って丘陵地が南北に幾つも連なる場所であり、ここに防衛陣地を築き決戦に備えようと提案した。
これに家康が唸るように考え込み回答に躊躇する。
「陣地としては申し分ないですが、些か近いですな」
懸念したのは武田軍との距離であった。設楽ヶ原と長篠城は僅か三十町(約3km)とかなり近く、これでは撤退の際に逃げられない恐れがないかと。
だが心配する周りとは反し信忠は意を決した面立ちで口を開く。
「これは我ら織田の覚悟と受け取って頂いて構いません」
「……ならば信忠殿は此度を決戦と心得ると?」
「無論、それは勝頼もまた同じと考えます。後は家康殿が決戦に賛同して頂けるかです」
家康は覚悟を決めた信忠を見て思わず身震いする。息子ほどの歳である者が臆することなく言い切る姿に。
また徳川家とていつまでも武田家の脅威に晒され続け、その度に織田家に救援を求めるのも不本意であり、終着が見えるのならば越したことはない。
「ならば信忠殿の決断に応じよう。此度の一戦を」
そして信忠と家康は全軍に出陣を命じ設楽ヶ原へと兵を進めた。
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