決別

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織田・徳川連合軍が行軍を開始した翌日、設楽ヶ原に到着し陣を築く。 その陣容は高台に兵を置き、予め持参した丸太を打ち立てて数多の防衛柵を備える他に、土塁により堀を高めて完全に迎え撃つ姿勢を整える。 そんな陣の中を家康は本陣から見通しながら唸っていた。 「ふぅーむ、中々に美しい陣……しかし美しすぎるあまりに少しばかり……」 「何か御懸念が、家康殿?」 「これだけ防衛に特化した陣ならば、いくら屈強なる武田兵とて易々と抜けないでしょう。しかし、堅牢過ぎるのもまた問題かと」 眼に見えるほどの堅牢。つまり、これほどの陣に武田軍が考えなしに突っ込んでくるとは思えなかった。 だが家康とて懸念だけを挙げて代用を考察しない阿呆では断じてない。故に言葉を続ける。 「我が尤も信を置く酒井を遣わせて頂きたい。彼を迂回させて武田軍の背に回り込み、敵本陣の鳶ヶ巣を奇襲させ炙り出す」 「なるほど、長篠城の救援にもなり上手くいけば挟撃にもなりますな。では酒井殿に火縄五百を御貸し致す」 「ごっ、五百丁で!?豪快ですな、これは恥をかけられませぬ」 武田本陣の奇襲に同意した信忠は、あっさりと五百丁もの鉄砲を廻すと言う。 それほどの数は、安く見積もっても現在の数億円分にもなるほどであり、預けられる側の家康も思わず息を呑む。 そして忠次は4,000の兵を率いて出陣。南の山に入り武田本陣を目指した。 だがそれを見送った数刻後に事態は大きく動き出したのである。 「御報告ッ!!御報告致しますッ!!武田軍が動き出しました!!」 忠次の奇襲が為る前に武田軍が前進を開始したのだ。
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