決別

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信康謀叛。 この報告は設楽ヶ原に布陣する本隊にも入り、誰もが血の気が引くように動きが硬直した。 「なっ……な、何と……岡崎城そのものが敵方に寝返ったと?」 「はっ!!信康は謀叛と同時に武田家と盟を結んでいるとも!!」 「馬鹿な……ならば我らは包囲されたではないか!!」 岡崎城は設楽ヶ原とは僅か十五里(60km)に位置しており、更に武田家と同調しているとなれば退路を断たれたということである。 これに対し信忠は即座に我に帰り頭を再び回転させた。 徳川軍はほぼ全軍を設楽ヶ原に向かわせており、岡崎城と付近の予備軍を集めても良くて2,000か3,000程度。後方を抑えられたとはいえ、自ら動き出すには兵が足りない。 だが、もしも此処で我らが敗北し撤退したとしたら退路を塞がれるのは致命的になってしまう。 しかし何よりも問題はそこではない。家康はこれを知っていたか否かである。 「家康殿は何処か!!真意を確かめる!!」 「なりませぬ!!御待ちくだされ、信忠様!!」 この突然の状況に信忠は家康が居る南の陣から呼び出そうとしたが、家臣が慌てて止めに入る。 「何を言っているか!!これは徳川家の重要な問題、家康殿本人の口から聞かずして如何にする!!」 「それがいけませぬ!!もしも家康殿が敵方に靡いていたとしたら危険すぎます!!」 「……っう」 最も避けたかった事態が既に起こってしまっており、信忠は息を呑む。 味方同士の疑心暗鬼。 こんな状況下でまともな戦闘などできる筈がない。何とかして家康の元に向かおうとする最中、とある異変に気が付いて不意に動きが止まる。 武田軍の布陣する東の方角から地を揺らすほどの咆哮が響いた。
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