決別

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伝令兵を見送った勝頼は床几に戻りながら笑顔を消し、そして信康からの書状を投げ捨てて鼻で笑う。 「ふっ、うつけも此処まで来ると清々しいものだ」 「大きすぎる正義感故に目の前しか見えておらぬな。まぁ、三年間の調略が無駄にならんでなによりだ」 武田家は信康の反織田思考と共に、徳川家内は彼の中心とした岡崎城派と家康の浜松城派として家臣同士が不仲である事を知っており、これを狙い長年に於ける調略を続けていた。 だが実行しといてなんだが、徳川家臣内の切り崩しが目的だったのに信康本人が裏切った事に呆れすら覚える。 「どっちだっていい。これでやっと睨み合いは終わりなんだろ?」 「そんな逸るでない、昌景。まず後ろで生殺しにしている長篠城の止めを刺さんと」 「んじゃ、この赤備に任せとけ。返す刀で織田も潰してやるっての」 ともあれ動き出した状況に、武田四天王たる山県昌景と馬場信房が次に取るべき行動を吟味する。 本来の目的である織田軍の誘い出しにも成功して後方を脅かす事にも成功させた。なので長篠城を始末して決戦に臨むべきだと話が纏りつつあったが、勝頼は眼を細めて静かに考え込む。 「……否、長篠城は包囲に置いてきた五千の兵に当たらせる。我らは間髪入れずに敵本隊を突く」 勝頼から出た言葉は、具申とは真逆の即時決戦であった。そしてどよめく家臣を見渡し改めて口を開く。 「敵は疑心暗鬼に陥っている。これを立ち直らせる刻を与えてはならぬ」 「しかし、それでは我らも後ろに敵を残したままになりますぞ」 「解かっている。だが今回の西征に敗北すれば、もう二度と織田を止める機会を得られぬ」 長篠城は落城寸前であるのだが、それでも後方に敵を残すのは懸念が残る。されど理解して尚も勝頼は強く決戦を推す。
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