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勝頼は家康に謀叛を弁解させる猶予だけは何としても与えたくなかった。
何故ならそれが設ヶ原を陥落させる最大の方法だと考えたが為である。
此度の武田家の動向であるが、決戦を目的として織田軍を引きずり出し徳川家を二分させる事も成功させるも、一つだけ大きな誤算が生じる。
それは設ヶ原に築かれた陣が想定以上に堅牢であったのだった。
これには理由があり、前の時代に長篠の戦いを経験していた信忠が、より効率的かつ迅速に陣の構築を指揮した為であったが勝頼は知るよしもない。
「皆の衆も理解している通り、かの陣はもはや城。然れども堅城は各々の役割を全うできねば張りぼてと同じ」
「敵が混乱している内に後ろを省みずに前へ進むべきと?」
信房の問いかけに勝頼は意を決した面立ちで一度だけ頷く。
「敵の本隊を叩けば、長篠城は降る他なく後ろに気を配る必要は失せる。"ならば皆の衆の技量を持てば何も問題あるまい"」
そして続いた言葉に武田家臣は一同唖然とするが、暫しの間をおいて昌景は吹き出して笑いだした。
「はは……ハハハハッ!!そうだな御屋形ッ!!我らに掛かれば何も問題あるまいッ!!」
「まったく、ならば命じよ。それで儂も腹を括ろう」
それに釣られて一人また一人と笑いだし、皆々は笑みを浮かべたまま死に逝く命令を求める。
この姿に勝頼は静かに息を呑み立ち上がった。
「……武田勝頼が命ずる!!全軍、設ヶ原の敵陣にて立ち向かう敵を殺し、倒れる敵を踏み潰し、背を向ける敵に万年の悪夢を魅せよ!!栄光は目の前だ、進めぇッ!!」
「うぅおおおおおおォォォォオッッ!!!!」
そして勝頼は命ずる。勝利へと向けた号令を。
そして武田家臣は応ずる。勝利へと向けた咆哮を。
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