抱きし大志

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本能寺。かの寺は京に建つ法華宗本門流の大本山であり、1415年に日隆によって創建された。 また歴代の貫主が地方に布教し、末寺が畿内、北陸、瀬戸内沿岸に種子島まで広布しされ、これが切っ掛けで独自の鉄砲・火薬を仕入れるルートを持っており、織田家など大名とも親交が深かい。 そんな本能寺の縁側で織田家、元主君である織田信長がカステラを頬張りながら太陽の日を全身に浴びていた。 「御食事のところ失礼致します。火急の報告が御座います」 そんな最中、森長可の弟にして信長の近習である森成利が額に隠し切れない汗を流しながら頭を下げて姿を現す。 だが火急の報と聞いても肝心の信長は落ち着いて並び置く金平糖も食しながら一息つく様子であった。 「騒々しいぞ、乱丸。信忠が負けたか?」 「いっ、いえ。御味方の凶報ではありませぬが、徳川の若君たる信康殿が謀叛され信忠様が包囲される形となっております」 恐る恐る報告する成利ではあるが信長は裏腹に落ち着いたままであり、その姿に眼を見開いて驚いてしまう。 長篠城に送られた軍勢は三万という大軍勢の上に当主の織田信忠が指揮を執っているにも関わらず、冷静過ぎではないかと。 「あの……出過ぎた事と解かっていますが、何故そこまで落ち着いておられるので?」 「徳川の倅が裏切るのは想定外だが、死ななければ負けても構わぬと思っている」 「負けても……構わないですか?」 負けても構わないという発言に成利は戦場で死んだ父と長兄を思い出して思わず手が震えてしまう。此度の戦いには兄の長可が参陣しており、もしもの事があればまた家族を失うのではないかと恐怖心にかられる。 だがこれに気が付いた信長は彼の肩を叩きながら首を横に振る。
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