抱きし大志

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信長は自身の家督相続の際に弟と対立して、それを殺した事がある。故に子に同じ轍を踏ませない為にも徹底させていた。 信忠は早くから長男として他とは特に格別に扱われ、その地位を確たるものと組み上げる。だが逆に長男の地位を確立させはしたが、それ以外の息子たちの立ち位置を創る事を怠った弊害もでていた。 特に次男の信雄と三男の信孝は目も当てられない程に仲違いが酷く、出生の歪みも相成って顔を合わせる度にお互い罵倒を投げつける。 こんな状態で信忠が居なくなれば、織田家は二分してしまうのは必定である。 成利はそんな懸念を頭の中で廻しながら考え込み、信長は眺めながら慈しむように小さく笑う。 「ともあれ、岡崎を無視すれば熱田に無用な火の粉が降りかかるやもしれぬ。予備軍を幾つか鎮圧に送ってやるか」 「信康殿を殺めるのですか?差し出がましながら、家康殿と無用な溝を創る恐れも……」 「家康が心変わりすれば徳川領を喰う名目が立つ。クハハハハッ、しかしそうなったら其処が信忠の金ヶ崎退き口であるな」 楽しそうに高笑いしながら、縁起でもない事をいう信長の姿に冷や汗が流れる。 「ところで援軍にはどなたを送りましょうか?」 「そうであるな……光秀でよかろう。奴なら戦も外交も信頼に値する」 「畏まりました。然らば坂本城に使いを出します」 信長は食し終えた膳を下げさせながら、信忠の援軍には明智光秀を出すように指示を出す。 そして手を伸ばし太陽に向かって掌を掲げ、届きそうな気がしてゆっくりと握った。 当然、太陽には触れれない。だが天下はあと少し伸ばせば届く位置までいるのは間違えない。 あと少し、あと一歩で。
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