抱きし大志

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援軍命令を受けた光秀はその日の深夜、一万三千の軍勢を率いて坂本城より出立する。 普通ならばこれほどの軍勢の戦支度など一朝一夕で終わるものではないが、信忠が遠征へ赴いているが故に備えていたと考えられ誰一人疑いもしなかった。 そして兵たちも君主信忠の援軍として、急いでいるのだろうと想定し眠い眼を擦らせながら特に考えずに足を進める。 「あーもう。殿様も急いでるのは解かるが、こんな夜更けに行軍しなんといかんかい」 「これって何処行くんか?ってか何で篝火の数こんな少ねぇんか?」 「東海道らしいけど詳しく知らん。んな事より遊楽行きたい、そんな銭ねぇけど」 「おい、お前らちょいと黙らんか。伝言が来てんぞ」 行軍は大軍勢にも関わらず、篝火をまったく灯さず足元がまともに見えていない。そんな皆が思わず愚痴る中で伝令が回ってきて耳打ちを受ける。 「これより一切の私語を禁ずる。また篝火も全て消し馬には布を噛ませ、それと合印を確認も忘れるな」 「はっ?んな事したらまともに行軍なんて……いや、それって」 伝令の内容に間違えがないのかと兵たちは首を傾げる。何故ならこれは最大限に音を抑える為の準備であり、この様な事をしてしまったら馬の体力が無駄に消耗し数日掛かる行軍に向かない上に只でさえ少ない篝火まで消すという。 これではまるで今から夜襲を仕掛けるかの様な指示の為に、ここにきて初めて疑問が生じるが従い行動する。 そしてこのままの状態で数刻余り移動を続けていると、改めて全軍の停止命令が下された。 「……おい、何かおかしいぞ。さっきから京へ続く街道を進んでるんじゃないか」 微かな異変が京に近づくにつれて不信感が疑問から確信に変わってゆき声が沸き上がる。そして疑問が緊張感へ変わり全体に響き感じさせた。
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