抱きし大志

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寅の正刻、東の方角から全てを見通すように陽が昇り出す。 明智軍は四条街道を通り桂川に到達。同時に光秀は馬の沓を切り捨てさせ、徒歩の足軽に新しく足半の草鞋に替えるように命じ、火縄を一尺五寸に切って火をつけ、五本づつ火先を下にして掲げるように指示した。 これは戦闘の準備を整える命であり、明智兵は淡々と従い整えて前を向く。 市中には先鋒として利三が突入。分隊を編成し町々の境にあった木戸を押し開けて本能寺を目指し門を確認できる位置にて待機した。 四半刻後、明智軍本隊も兵を進ませ完全に包囲網を構築させる。 「利三」 「御意」 光秀の命に利三は数人の供を連れて南門に脚を進める。そして門番に対して一礼し、書状と合印を示す。 「門番所君、務め御苦労。明智日向守様より火急の書状を御預かりしており、寺内の一雲斎針阿弥殿に御目通りを願いたい」 「承りました。おい、門開けぇい」 利三は織田家内でも名の知れた者であり、それを見知っていた門番は謀叛など頭の片隅にもないまま門を開いた。 そして開きだした瞬間に門番の顔に腕を廻し、口を塞いで脇差を喉元に差し込む。突然前触れなく刺された事に手をばたつかせて暴れるが頑なに離さず立て続けに突き刺し続ける。 遺骸は崩れるように顔面から地に倒れるが、余韻に浸る間など捨て置いて次に開きだす門から突入し内側に待機していた兵も声一つ発させる前に皆殺しにせしめる。 「本隊に南門制圧の旨を伝えろ。鉄砲隊は先んじて塀の上で待機せよ」 利三の攻撃成功に光秀は更に兵を進め本能寺への包囲網を狭めた。 外堀は明智兵に埋め尽くされ、いつでも突入を開始できるように武具や梯子の類を各々持ち歯を喰いしばる。 「天命携えし我が誇りなる勇兵に告ぐ。攻撃を開始せよ」 そしてこれに応えるように、光秀からの攻撃命令が発せられる。
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