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脱出路を目指す二人は仏具の納められる蔵に入り、そこに隠されていた隠し戸を開き地下へと通じる道を確認する。
そして信長は地下に入るが、成利は下唇を喰い縛り手を震わしながら入口の前で足を止めた。
「どうか生きてくだされ、上様。私は外に残り戸を隠して寺に火を放ちます」
「……お前も死ぬ気か」
「一人でも多くの明智兵を地獄へ送ってみせます。上様はただ前に……天下に歩んで下さい」
成利は最大限まで逃げる時間を稼ぐ為、その場に残り戦うことを決意する。
当然、残れば死ぬことなど必定だが、その程度は百も承知。後悔など死に絶える瞬間にだけ未熟であったと考えれば十分なのだ。
「ならば褒美にこいつを与える」
「こっ、これは不動行光!!これほどの名刀を私などに!?」
そして信長は成利に一振りの刀を手渡す。それこそが信長の愛刀にして日ノ本有数の名刀、不動行光であったのだ。
「お前には相応しい舞台を用意してやりたかった。許せ」
「上様の背を御守りして死ねるなら、地獄の父上も頭を撫でてくれるでしょう」
この刀を身を引き締めて両手でしっかりと握り締め拝領し一礼する。
「これにて失礼致します。最後の御奉公、しかと仕ります」
最後の言葉を告げた成利は入口を閉じて周囲を仏具で固める。
そして本堂に戻り蔵へ近づける事を防ぐべく篝火を蹴り倒して放火し廻っていたら、とある人物が視界に入り動きが止まった。
その人物は利三であり、あろうことか彼が弟の長氏と長隆を殺している姿であったのだ。
「斎藤利三ぅぅぅうッ!!この悪鬼の塊が力丸と坊丸にまで手に掛けたなァッ!!」
弟の死に成利は喉を潰すほどに叫び、目の前の仇の首を刻むべく利三に迫る。
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