抱きし大志

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疾風迅雷。成利は迷うことなく利三に向かって真っ直ぐと突き進む。 「殺すッ!!殺す殺す、殺すッ!!父上のッ、兄上のッ、弟の死を無駄にさせない為にも!!」 「ぬッ、主は……信長の小姓の」 「黙れッ!!乱世招きし逆賊が、死して罪を償え!!」 横一線に弧を描く刀の軌道は利三の首を目指す。だがすぐに反応され半歩下がり刀で受け流して去なされた。 しかし完璧に受け流したにも関わらず、その一撃だけで利三の刀が痛み刃毀れを起こしている。 「これは……良き刀を賜ったようだな。如何に信頼されているか見てとれる」 「貴様ァ、貴様などに上様の心中を語る口なぞ無かろうが!!」 成利は避けられた事に焦る間などないと理解し、続けて振り向き様に刀を返し叩き切ろうとする。だがしかし、その刹那異変が起こった。 顔面に激痛が走った。そして視界が暗くなり何も見えなくなったのだ。 「許しは乞わん、怨め」 一閃で両目を切り潰された。そして目元は赤く染まり動きが止まってしまう成利の命を断たせる。 だが死して尚も刀を離さないその姿に利三は静かに手を合わせて、不動行光を触れる事なくその場を後にする。 「その刀は君に相応しい……拙者の穢れた手には輝きが強すぎる」 しかし僅かな時間稼ぎなれど、成利は寺に火を放つという行動は功を奏して行く手が崩れ落ちる。 これには明智兵も狼狽してしまい、走って外に避難する者も見てとれた。 「利三様!!此方に居られましたか!!火の手の回りが早いです、御戻り下され!!」 「潮時か、今戻る」 本能寺は次々と火が移ってゆき大きく燃え上がる。 焼け落ちる寺は、まるで織田の創り上げた天下が崩れゆくのを物語っているようであった。
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