抱きし大志

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信長が使った地下道は暗く狭い一本道であり、一人でそこを歩んでいた。 上からは微かにだが依然として大勢の人間が叫んでいる声が聞こえており、また寺が崩れているのか天井は揺れて土石が落ちてきている。 暫くの間そんな不安定な道を歩み続けていると、信長はとあるものに気が付いて思わず眼を細めた。今までの道筋は篝火を立て掛けていたのだが、一点だけ灯りが漂うように浮いていたのである。 否、灯りではない。そう気が付いた時にはもう遅かった。 一度だけ乾いた発砲音が狭い地下道に鳴り響き、同時に信長の着ていた白い寝着が脇腹から紅色に染めあがってゆく。 「っう!!お前か、光秀」 撃たれた。熱を帯びて激痛が走る脇腹を抑えながら、前方から地を踏む音と共に次第に近づき篝火がその顔を照らす。 そして火縄銃を携えた謀叛軍総大将たる明智光秀が姿を現した。 「お前にもこの地下道を教えた覚えがないんだがな」 「探索隊を編成して、長い事抜け穴の類を探りましたから。無駄にならずに喜ばしい限りです」 「クッハハハ、長い事……か」 信長は長い事という単語に引っ掛かり、少し考えて思い出したように口を開く。 「長島と越前の一向一揆を仕組んだのもお前か?」 「御名答で御座います。織田家の内側を安定させる為に潰せるよう致しました」 光秀は過去の一向一揆を裏で主導して故意的に織田家に潰させていた。 理由は単純であり、信長は本願寺顕如を信頼しても門徒まで信頼できるかどうかは別である。更にその信頼できない者共が織田家の懐に拠点を築いているなど危険極まりない。 そして残したままでいれば、信長が多方面に大軍を送る事も渋るやも知れないとの理由である為に敢えて蜂起させたのである。
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