抱きし大志

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本能寺は焼け落ち、其処に残るは崩れる焦げた木材や人だったモノとその悪臭だけだった。 「この死体は……金森家一人息子の長則殿」 「おいたわしや長近殿は御年齢的に第二子は難しいでしょうに」 そして明智兵は歓喜よりも、冷静になって自身のやったことを省みて困惑している者の方が多い。 殺してしまったのだ、この日ノ本を統べる男と言って過言でない者を。壊してしまったのだ、この日ノ本の秩序を。 これに対して冷静にいろという方が無理がある。 「皆の衆、残党は一人も残すな!!軍勢を整え次第に京へ討ち入る!!」 「どちらに行かれてたのですか光秀様!?いや、そんな事より信長の首級は依然見つかりませぬ。如何致しますか」 そんな混乱を秀満や利三を始めとする将兵は必死に鎮め、光秀も馬に跨がり待機場へと姿を現す。 また信長の死体が無いことに不安の声もあがるが光秀はゆっくりと首を横に振った。 「首はもういい、次の一手を打ち込む」 「しっ、しかしそれでは」 「……よい。探索に出した兵を戻させよ」 諭すような物言いに秀満は困惑するが、そのまま言葉を続ける。 「秀満、君は手勢を率いて京を抑えよ」 「御意、それと吉報が御座います。荒木村重殿が応じて下さいました。有岡城にて西の敵は承ったとの由。また京極も恭順の意を示しています」 「結構、南の紀伊と伊賀も一枚岩ではない。混乱した織田家の為に命を張る事もなかろう」 「してっ、光秀様も京に赴き朝廷を抑えるので?」 問い掛けに対して光秀は指を東に指し示す。 「残る最大の障害は東の織田信忠。故に畿内の要所たる安土城を制圧せしめ街道を封鎖する」 「安土城で御座いますか。敵が混乱している内に抑えられる要所は全て取っておくべきで御座いますか」 そして本能寺からの撤収命令が下され、明智軍は各々兵を別けて行動を開始する。 新たな秩序を打ち立てる為に。
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