真の信は

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馬の後ろに括り付けられた木の束が引き摺られ、それの意味が明確になった頃には時既に遅かった。 曳きづられた木が地面を掻いて土煙が捲き上がる。 そして複数の騎馬団が同じく派手に動き、その規模は次第に大きくなって瞬く間に突撃する武田軍を包み込んだのだった。 「なっ、敵が見えんッ!!これでは撃つ機が定めれんではないかッ!!」 捲き上がる土煙に身を包ませる武田軍は姿を隠して設楽ヶ原に向かって来ており、それ即ち撃つべきタイミングを潰されてしまうという事になってしまう。 更に武田軍は風向きを計算してから攻勢を敢行していた為に、土煙は着実に迫ってより一層の焦燥感に捕らわれる。 「いつだ……いつ引き金を引けばいいんだ……いつまでこの状態で……ぁあ、敵が!!」 「敵が出たぞッ!!今、撃たないと手遅れになるぞッ!!」 最前列の織田兵は土煙の中から武田兵が薄っすらと姿を現している事に気が付き、このままでは一気に攻めかかられるのでないかと不安が積ってしまい、最悪の事態が起こるべくして起きてしまった。 そして不安と恐怖心に憑りつかれた何人かの兵は指示を待ち切れずに引き金を引いてしまい、数発だけであるが敵がまともに確認できない土煙へ飛び込んだ。 「誰だぁ、勝手に発砲した奴はッ!!」 「何じゃ!?もう命令が出たのか、こっちも撃ったほうがいいんか!!」 この少数の発砲に触発されてしまい、次々と散発的に攻撃を開始してしまったのだった。これにより当初予定していた一斉射撃からの制圧とは真逆の結果になってしまう。 「っう……あれほど言ったのに勝手な真似をッ!!」 まんまと手玉に取られたその見るに堪えない様に、信忠は憤慨の極みと言わんが如くに手に持つ采配を叩き折る。
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