真の信は

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南陣の守る徳川軍であるが、何処も死にもの狂いで戦う中で膠着状態の光景は異様に見えてしまっていた。 そしてこれを見た織田将兵は口を開いてとある疑念を発する。 「やはり武田に寝返ったのは、息子だけでなく家康もなんじゃないか?」 家康の嫡男である徳川信康が突如として謀叛を起した。当然それは兵たちには伏せているが知っている者にとってみれば故意的に手を抜いているようにしか見えなかったのだ。 だがこの様な有らぬ疑いは家康とて薄々感じ取れているも、だからといって陣から飛び出て武田軍に向かっていけば孤立するのは必定である。故に徳川軍はどう転んでも罠だと理解していながら付き合わざる得なかった。 「家康様ッ!!南陣の織田勢が他の陣へ救援に向かう為に持ち場を離れていますッ!!」 「煩わしい事をやってくれるな馬場め。これでは内通を疑われても無理もない」 「なればこの本多平八郎が全滅してでも潔白を証明致しましょうッ!!どうか死ねと御命じ下されッ!!」 その中で徳川兵は討って出て功を挙げるか玉砕してでも信頼を取り戻すべきと進言するも、家康は三方ヶ原での誘き出された時の敗北が脳裏を過り口は固く閉ざされたままである。     「柵から出る事は禁ずる。あくまでも迎え撃つという形を崩すな」 そして最終的に家康の命じた内容は様子見に近いものであった。だがこれは長年に渡り武田家と鎬を削っているからこそ相手の技量を見極め軽率な行動は良しとしなかっただけであり、同時に南陣の要となっている故に冷静な判断ともいえる。 しかしそんな心境など知る由もない織田兵の不満は次第に増えていっていた。 「御報告申し上げますッ!!徳川軍は膠着状態のまま動きなしッ!!」 「ぬぅ、元々これは徳川の戦であろうがッ!!それが一番まともに戦っていないとは如何なる領分かッ!!」 だが冷静な判断は時に消極的とも取られ、苦戦している者には反感を買うのであったのだ。
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