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武田軍の猛攻は特に中央陣が熾烈を極めていた。
そこは昌景率いる赤備が我先にと前に出て槍を振るっており、これを見た武田兵も鼓舞されて負けじと雄叫びを挙げて突き進んで来る。
「鉄砲衆放てぇい!!これ以上、柵を破壊される事は許さんぞ!!」
「無理です!!武田勢止まりませぬ!!」
織田軍はその猛攻を止めるべく鉄砲衆を後ろに下げて再度一斉射撃を撃たせるが、完全に勢いに乗っている武田軍には焼き石に水でしかなかった。
そして接敵から僅か一刻足らずで、昌景が1,000人程度を引き連れて中央陣を突破せしめる。
「御報告致しますッ!!紺地に白の桔梗の軍勢に突破されましたッ!!」
「~~~っう!!後方に狼煙を挙げて厳重警戒を促せ!!信忠様の本陣が槍を合わせる事となれば我ら全員の首が飛ぶと覚悟しろ!!」
早すぎる敵の突破に長秀は思わず頭を抱えて歯軋りを立てる。総大将たる信忠が布陣する本陣までの距離はまだ余裕があり軍勢を配置させているものの、過去の関ヶ原の折に真柄直隆が正面からの中央突破を果たしている例もあり楽観視などできない。
また、昌景がそのまま突破せずに軍を戻して来れば中央陣が包囲されてしまう恐れもある為に馬上から体を乗り上げて動きに注視する。
「どうでる赤備……そのまま包囲覚悟で突き進むか?それとも戻って来るか」
だがしかし、昌景は長秀の予測したどちらでもない行動を始めた。
それは突き進むでも引き返すでもなく、突如として馬を南に向けて南下を開始したのであり、即ち南陣を守る徳川軍の背後に向かっていったのである。
更に移動しつつ鏑矢を放って合図を挙げる。そしてこれに合わせて現状維持に務めていた馬場軍から咆哮が響いた。
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