真の信は

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「御味方、南陣の一ノ柵を突破され申したッ!!次いで織田方の後詰めは依然確認されずッ!!」 「カッカッカッ!!織田は動かぬか!!」 織田家は不動という内容に信房は喜びのあまりに手を叩いた。 今回の戦は織田家にとってみれば所詮は他人の手伝いに過ぎない。それに対して本陣を危険に晒してまで助けに入る筈がなく信康の裏切りがそれに拍車を掛ける。 また家康が討ち取られれば織田家は戦う理由がなくなり撤退し、寧ろ軍備を整え直して保護の名目で徳川領に攻めかかるであろう。 武田家の長篠の戦いによる本当の狙いは、”織田主力でなく、徳川主力を誘い出して壊滅させる”のであった。 そしてこの突然の事態に徳川陣営も混乱が生じる。 「家康様ッ!!後方も他の陣も織田勢が後詰めとして動く気配がありませぬッ!!」 「申し上げますッ!!山県ら勢い留まることを知らず、この陣へ真っ直ぐ向かっておりますッ!!」 「再度、御詰め要請を送れ!!議論の時間などありはせぬぞ!!」 当然として動かない織田軍に徳川軍は焦ってしまう。更にいえば陣の内側は多くの柵が建てられて堅牢に違いないのだが、逆にいえば堅牢過ぎるが故に身動きが取りにくく、前方も後方も同時に攻められては柔軟な行動を起こせずにいたのである。 「山県勢に最後の三ノ柵を突破されましたぁッ!!」 「後方が手薄であったとはいえ、もう来たのか!?迎撃準備急げぇいッ!!」 もはやどう転んでも再起は図れるという織田軍と総動員により国の命運を賭けた武田軍とは覚悟の差が如何ともし難かったのである。そして昌景は高笑いをしながら家康の居る葵の紋の陣に目前まで迫り、この戦の勝利を確信する。 これには織田軍の殆どが手遅れと感じる。しかし、ただ一人を除いてであるが。 「横っ腹ががら空きだ、阿呆めッ!!この森長可が赤鬼の首をもらってやろうってんだッ!!」 何物にも縛られぬ若武者が赤備に横槍を入れたのであった。
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