真の信は

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圧倒的に埋めがたき実力差。戦経験の差、鍛練の差、殺した数の差、昌景との差は両手両足に命すら投げ棄てる覚悟でないと縮まらないだろう。 故に決死の覚悟すら心に過る長可であったが、馬のいななきと共に後方より叫ぶ声に動きが止まった。 「織田の若武者よッ!!一度下がれぇいッ!!」 そして叫び声と共に後ろから長可を押し退けるように大柄の男が馬に跨って罷り通り、昌景に切り掛かり大きく口を開く。 「本多平八郎、推参ンッ!!」 「いやいやいや、邪魔すんなやぁッ!!」 名乗り挙げた大柄の男の名は、本多平八郎忠勝。後の徳川四天王の一人に数えられる屈指の猛将であった。だが本人は助けたつもりでも一騎射ちに割り込まれた長可は納得がいかず文句を言う。 挙句にわざと馬をぶつかりそうなくらいに近づけて唸り声まで挙げ出しており、昌景はそんな様子を見て再び笑った。 「二人揃って来ればよい。そろそろ家康の首が欲しいのでな」 「はっ?……はぁっ!!?」 あろう事か昌景は纏めて掛かって来いと言い張り、挑発を受けた二人はあんぐりと口を開けて声を揃える。 長可とて織田家の武闘派一家たる森家当主としての誇りを持ち合わせている。そして忠勝も齢13の頃に家康の為 に戦場に立ち、父の忠高は戦死し叔父の忠真も戦死し祖夫たる忠豊も戦死していおり、本多家は忠義の為に戦場で死ぬ運命ともいえるのだ。 そんな忠義の為に死を厭わないと心から抱いている二人は、同時に息を大きく吸い上げて武具を突き立てとある言葉を発する。 「ぶっ殺すッ!!」 屈辱。何たる屈辱か。これ即ち個人の侮蔑のみならず、先祖代々の積み重ねを踏み躙られたと同じ事。故に怒りを燃やし体を乗り上げて昌景に攻めかかった。
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