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昌景は刀を振り下ろすが、それが届く前に忠勝は蹴り上げて避けるも完全に避ける事は叶わずに、自慢の鹿角脇立黒漆塗兜の二本角が圧し折られた。
だが忠勝は怯まずにこの折れ落ちた角を掴み取り、昌景の左肩に突き刺して返り血が顔面を紅色に染める。
「その角はくれてやるわッ!!」
「んな生ぬるいのが、どうしたぁッ!!」
しかし対する昌景も一切として怯まない。敢えて傷を負った左手を振りかざし相手の顔面を殴り、殴り、殴り続ける。そして乱打を続けて次は右手に持つ刀で止めを入れようとした。
然れど、そこまでしても止めは通らない。忠勝は振りかざす刀の側面を全力で殴り付け、あろう事かその一撃で刀を圧し折ってみせ、更に返す手で昌景の顔面をお返しとばかりに殴る。
「死ねぇッ!!死ねッ、死ねッ、シネッ、死ネッ!!死ねぇぇぇいッ!!!!」
そして二人は同じ言葉を揃って叫びながら組み合い殴り掛かっており、あまりに激しく双方近すぎる為に兵たちも加勢のしようがなく様子が見るしかなかった。
だがこの殴り合いは膠着せずに突然として事が動き出す。
殴り合っている二人に向かって昌景の馬が駆け出したのだ。流石の忠勝もこれには驚きすかさず身を転がして避けたが、昌景はにんまりと笑い馬の手綱に手を取る。
手綱を取った昌景は足を止めさせずに引き摺られながらも立ち上がり、倒れる忠勝の馬に突き刺さる槍を引き抜いて駆け出した。
「赤備のッ!!よもや逃げるかッ!!」
忠勝の叫びは虚しく響くだけであり、昌景は振り返らずにただ真っ直ぐと徳川本陣の葵紋の陣幕を見据える。
逃げるも何も昌景の目的など元々ただ一つ。家康の首ただ一つで過程など興味はないのだ。
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