真の信は

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「もっ、申し上げますッ!!山県昌景が依然として此方に向かっております、何卒退去のほどをッ!!」 駆ける紅き具足。昌景は一歩また一歩と踏み締め徳川本陣に近づいてくる。幾人もの徳川兵がその身を以って止めるべく切り掛かるも、いとも容易く去なされるか随行する赤備に阻止される。 このままでは敵が徳川本陣に突入するは時間の問題で止めるは不可能であり、火急の事態に兵は血相を欠いて家康に現状を報告した。 「あぁ、赤備……美しい。血生臭き戦場にも関わらず、鷹が如き気高く煌々足らんとする姿勢……まっこと美しい」 だが慌てる兵とは裏腹に肝心の家康はうっとりとした表情をしており、これを見た周りは何事かと思わず後退りする。 「解らぬか?敵は武田最強の赤備、彼らが屍を晒しながらも振り返ることなく前だけに活路を見いだしておる」 この家康の元に向かっている赤備は数多の徳川兵を殺そうと関係ない。手柄となる名のある首も興味を持たない。彼らは幾千幾万の首を挙げようとその程度では決して頬を緩めない。 優越に浸る為にはただ一つ、故郷で祝い酒を振舞う為にはただ一つ、功を想いながら女を抱く為にはただ一つ。 赤備が納得のいくには、家康の首級を天に掲げて己が声を挙げた瞬間であるのだ。 それほどまでにこの家康を殺すべく犠牲を払っているのかと思うと、恐怖を感じる前に興奮のあまりに拳を握る。 「家康ッ!!急ぎ退去をッ!!」 「何を言う。あれほど美しき者たち、我が手で色を染め上げるが至上の悦びぞ」 「なっ!!いったい何を仰っているのですか!?」 徳川兵は家康の撤退を進言するも、眼を輝かせて笑う姿に狂気すら感じ取った。
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