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昌景が攻める南陣の逆側、信房も攻勢を続けていたのだが徳川本陣の異変に気が付つく。
「御報告致しますッ!!山県様が……白の桔梗の旗が全てを見えなくなりました」
「……逝ったか……山県の」
死を悟った信房は数秒間であるが目を瞑り黙祷し、同時に眼を見開いて南陣を睨み付ける。
だがこの死は無駄にはしない。家康は鉄砲衆を始めとする多くの兵を昌景を防ぐ為に廻しており、戦線を整えられる前に確実に攻めていたのだ。
「現状、敵の数は少ない。慌てず懸かれぇい」
「応ッ!!」
馬場軍は更に兵を押し出して詰めるが、南陣の中腹辺りまで制圧したところで信房にとって想定外のものが眼に入った。
織田木瓜の旗。織田軍を象徴するそれが数千人規模の軍勢と共に姿を現していたのである。
「織田軍、その数凡そ六千が後詰めに到着された様子ッ!!こっ……このままでは数に押されて徳川本陣まで辿り着けませぬッ!!」
「……六千?何処からそんな数が来た……いや、現状の徳川勢をそこまで助けようとする将がいるのか?」
信房は改めて戦況を見据えるべく辺りを見回す。
他の陣から援軍が送られた様子はない。そもそも六千なんて兵を増援に出したら、その陣から破られる事は眼に見えている。
だが見据える先にとある物が飛び込み、驚きのあまりに口をあんぐりと開けてしまう。
「あの馬印……まさか桝形に金の切裂か!?」
桝形に金の切裂。つまりそれは織田信忠本人の馬印であり、それ即ちこの軍勢は織田軍の本隊である事を象徴していたのである。
「者共ッ!!家康の首は後回しでよいッ!!この南陣に織田信忠がいるぞ!!」
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