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是非もなし。信忠の切腹を止めようとする者はいなかった。
この一言は信忠がここまで重傷を負うまで戦い、彼が考え抜いて出した結果であるのだ。
それを誰が否定できようか、否定してしまうと信忠のここまでの戦いは無駄だと否定する様なものなのだから。
家臣達は信忠を囲む様に座り込み、ただただ溢れでそうになる涙を堪える。
「新介……介錯を頼む」
「……御意に」
新介と呼ばれた男は、静かに立ち上がり刀を抜いて信忠の目を見る。
介錯というのは切腹の際にその者の止めをさす役割であり、それは大変名誉であると同時に腹を切った者を苦しませない様に一刀で終わらせなければならない腕が必要である。
そして信忠は長きの間付いて来てくれた新介に信頼を置いて介錯を求める。
固唾を飲む信忠は腰に挿す脇差を抜いた後ゆっくりと口を開いた。
「……すまないな皆の者……このような事に巻き込んでしまい」
信忠の口から出た言葉は、家臣達にも対する謝罪の言葉であった。
「なっ!!何を仰いますか!?我等は望んで中将様と歩んだのですぞ!!そのような事は誰も思ってはおりませぬ!!」
「いや……これは私の弱さが生んだ結果である」
家臣達は皆身を乗り出して言うが、信忠は小さく首を振って言葉を続ける。
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