真の信は

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武田全軍撤退を命ずる引揚貝。この音は南陣を抑えていた信房の耳にも入っていた。 「信房様、これは……これは我らの敗北……」 「そんな、これでは何のために此処で死力を尽くし昌景殿も散ったのか」 撤退の命令に馬場兵は緊張の糸が切れてしまい、涙を流す者や武器を落としてその場で膝を付いてしまう者までいた。そしてこれを見た信房は手に持つ槍を大きく振り上げる。 「者共ッ!!傾注せよッ!!」 信房は気合を入れ直すかのように大きく声を荒げて叫び、狼狽してしまっていた兵たちは驚いて姿勢を正し視線を向けた。 注目を集めさせた次に振り上げた槍を後方に向けて逃げ出す武田兵を見せて再び息を吸い上げる。 「戦意失いし者は、急ぎ逃げぃッ!!然れど儂と殿軍を務める気概のある者は死地に続けぃッ!!」 そして信房の槍は徹底抗戦の宣言と共に槍を迫る織田・徳川軍の群れに構え直す。馬場軍の数は四千程度に対して敵は一万以上と勝利の芽は無いに等しかった。 だがこの檄に馬場兵は立ち上がり武器を構え、乱れた陣列を整い直してとるべき己が意志と覚悟を行動で表して魅せる。 「信房様ッ!!我ら不死身の馬場軍と称された誇りは誰一人として死んでおりませぬッ!!」 「カッカッカッ、ならば儂らの退き口は正面ぞ。地獄に逝ったら皆に酒を振る舞おう」 「格別の馳走、心より楽しみにさせて頂きまするッ!!」 士気を盛り返した馬場軍は遅滞行動を取り止め、数倍の敵に攻勢を開始する。 この攻勢により、馬場軍は不死身の称号を証明するかの如く、幾多に切られ撃たれようとも立ち上がり戦い続けて骸を重ねる光景に織田・徳川兵たちを震え上がらせた。 そして殆どの者が死ぬまで戦い勝頼が退く刻を稼ぐ。また信房も付き従う友と共に。
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