真の信は

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「御報告ッ!!御報告致しますッ!!真田左衛門尉様、大須賀康高を討ち取るも渡辺守綱に討たれ申したァッ!!」 「馬場美濃守様ッ……美濃守様、御討ち死にッ!!」 「……信綱……信房までも……っう、一人でも多く生き残れッ!!皆の死を無駄にせぬ為にも逃げるぞッ!!」 振り返る事無く撤退する勝頼に次々と家臣たちが討死してゆく報告が舞い込み、悲痛のあまりに思わず天を仰ぐ。 死んでゆく。共に父の意志を継ぎ、甲斐と信濃を盛り立てようとする同志が死んでゆく。 友の断末魔が聞こえ、家族の悲痛の叫びが聞こえ、同志の啜り泣く声が聞こえる。勝頼はそれが耳に入る度に心が押し潰されて嗚咽すら感じ取る。 「……織田信忠か……松よ、良き旦那を掴まえたな」 そして顔も知らぬ相手の名を呟きながら、数多の夢と骸を設楽ヶ原に残して何とか信濃へ逃げ帰った。 設ヶ楽原から総撤退した武田軍は連合軍からの苛烈な追撃を受け、勝頼が躑躅ヶ崎館に戻った時は数十人程度の馬廻りしか付いて来れず、また武田四天王は昌信を除く三人は戦死。他にも多くの将兵が死に完全に敗北を喫す。 この長年の武田家の歴史に於ける大敗は支配地に激震を奔らせ、その中には織田家や徳川家と通じるべきかと考える者もおり問題が重ね重なってしまう。 それを制すべく敗北の戦後処理に信昌は五箇条の献策を提言。内容を要約すると北条家と上杉家の同盟を固め、戦死した家臣の子弟を奥近習衆等として取り立てる。最後に戦線を離脱した信君を切腹させるべきだというものであった。 しかし勝頼は甲斐の国が豪族との連合体であるが故に武田家が割れてしまうのを危惧し、切腹の件だけは実行できないと判断して戦後処理を終える。 終えざる得なかった。
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