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武田軍の誰しもが下を向いて悲観に押し潰される中、織田・徳川の連合軍は声を高らかに挙げ武具を天に振り上げて勝利を喜んだ。
特に徳川家と武田家との因果関係は長きに渡り戦い合っており、三方ヶ原や高天神城といった数多の敗北を重ねたが遂に掴んだ大勝利に酔いしれる。
「勝った……勝った、勝った……しかも前の時代より大戦果……クッハハ……クッハハハハハハハッ!!」
そして帷幕の中で信忠は嬉しさのあまりに人払いして一人、くるくると跳回るって喜んでいた。
前の時代とは違い、今回は本願寺を敵にしていないので残る大きな敵は毛利家と北条家ほど。だが羽柴秀吉の毛利攻勢も順調であり、北条家など現状の織田家から見れば小田原城が取り柄の田舎侍。
それに堅牢なだけの城なんぞ幾らでも落としようはある。後は謀叛を起した信康など取るに足らないといったものであり、如何様にもできるというものだ。
「……謀叛」
今後の方針をいろいろと考えていると不意に動きが止まる。謀叛といえば前の時代もあと一歩の処で明智光秀に謀反を起されたことを。
故に彼の処遇も考える頃合いだろうかと頭に過ぎるが、その最中にとある者が陣幕の外から現れる。
「信忠様ッ!!火急の報で御座います、信忠様ァッ!!」
「如何にした、新介!!武田残党か!?」
その声の主は側近の鎌田新介であり、荒々しい叫び声ともいえる程に慌てふためき中に飛び込む。
そして余程に動揺しているのか、這いつくばるように信忠に近づいて固く握りしめる書状を差し出して震える口を開く。
「この書状は今しがた京から走って来た使者からによる物です……そしてその……使者の言った事が……」
信忠は口篭もり顔面蒼白の新介から書状を受け取り、それを開いて中を見る。
明智光秀の謀叛を記された書状を。
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