真の信は

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明智光秀謀反。 本能寺襲撃及び信長の安否不明。 「止められなかったか、光秀よ」 安否不明とは書かれているが、光秀の手並みなら十中八九討たれたであろう。 「……新介、すぐに下知を出す……だが少しだけ時間をくれ」 「……御意」 全てを悟った信忠は書状をゆっくりと下げて、震えながら新介は静かにその場を後にする。 そして一人になり、床几に腰掛けて書状を地に落とす。 あれだけ前の時代と同じ轍は踏むまいと勇んでいながら、結局は何も出来ないまま事が起こってしまった。 家督は継ぎ終えているとはいえ、信長の意向は広大な領地の芯まで染み付いている。そのようなものをただ子だからという理由で本当に統治しきれるか? 光秀は織田家に於ける有数の功労者である。それほどの者が裏切った後に自身は他人を本当に信用できるのか? 前の時代では動揺のあまりに何も考えられなかったが、今思えば乗し掛かる重圧に押し潰されそうだと再認識する。 「避けられぬ運命なのか」 どう足掻こうが死ぬのか、信長もそして自分自身も。 不安に押し潰されそうになり信忠の心に影を落とす。だが不意にそれを照らし輝く者の存在を思い出して立ち上がる。 その光こそ松姫。彼女を心に思えば、不安で伏っしている時などありはしない。 自身が望むことを今一度理解した。死んだら誰が愛するものを守るか。信長は守れなかったが、それに悲観して他に守れるべき者を救えなくなるなど本末転倒である。 「新介!!全軍を集めろ!!それと早馬を走らせて各城々に飯の支度を命じさせろ!!」 「御意ッ!!」 信忠は決意する。この一戦は前の時代で行った逃げの戦いではない。明日を掴み歩むための一戦であると。
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