集え勇士よ

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「家康殿、時が惜しい為に本題に入らせて頂きます。二日前に我が当主たる織田信長が討たれました」 「……んっ…………んんっ?ンンンッ!!?」 長篠の戦いを終えた設楽ヶ原の徳川陣。そこで織田信忠が有無を言わさず徳川家康の元に立ち入り、織田家当主が死んだ事を包み隠さずに言い切った。 この突然の事に家康は意味が理解できず首を傾げ続けて90度ほど曲がってしまう。 だがそんな信忠は様子に反応すらせずに改めて口を開く。 「話を続けさせて頂く。これより織田軍は逆賊を討つべく京へ戻る。次いで信康殿を殺すが構いませんか」 「……わざわざ、許可を求めますか」 「能書きは無用とさせて頂きたい。信康殿を殺すか此所で我が軍と一戦交えるか早急に決めてもらいたい」 未だに信長の死が真なのかと半信半疑であったが、信忠の眼は真っ直ぐと鋭いものであった。 また瞳の奥は輝きを放つ。そして家康はその同じ瞳を知っていたのだ。 信長も同じ瞳であった。絶望を知りながらも未来の希望を絶さず、全てを吸い込まんとするそれは親子共に重なる。 「……愚息の処遇は此方でやらせてもらいたい」 「ならば信康殿の件はお任せして我が軍は先んじて帰らせて頂きます」 信忠の言葉に家康は眉をひそます。 信康の件を全て任せて戻るという事は、無防備な背を晒してまで信頼してもらえているのかと。 この一言で家康の心は決まる。この輝く瞳を無下にするはあまりに惜しいというものだと思わされた故に。 それに徳川家にとってもこれは大きな躍進の好機である。 信忠が勝てば織田政権内でも大大名の地位は固くなり、敗けども何なりと理由をつけて尾張を容易く奪えてどう転んでも旨味もあった。
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