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所変わって中国方面軍指揮官である羽柴秀吉の元にも本能寺の変を報せる者が到着する。
その時の羽柴軍は奇しくも前の時代と同じく、清水宗治が籠る備中高松城を水攻めにして包囲しており、毛利家に対して優勢に事を運んでいた。
だが秀吉は報告の書状を固く握り締めるあまりに潰してしまいながら立ち尽くしている。
「……信長様が……光秀……あやつ」
秀吉は半刻近く譫言を繰り返しており、皆は困惑して声を掛けられない様子であったが、ただ一人だけ内心で笑っていた者がいた。
これはいい、御運が開けたぞ。
信長の死によってより飛躍できると考えたのは、羽柴軍の軍師たる黒田孝高であった。彼はこの事態が好機と思い今なら秀吉に天下が獲れると耳打ちするべきだと確信を持つ。
「秀吉様、御運が……」
「待ちなさい、官兵衛」
しかし孝高が秀吉の元に近づこうとすると後ろから襟を掴まれて引き戻される。そして振り返ると同じく羽柴軍の軍師である竹中重治が小さく首を振る姿が映あった。
だが止められた事に孝高は内心苛立ちを募らせる。
今こそ秀吉を扇動して織田家を蹴落とす覚悟を持たせれば天下を奪うことが可能かもしれない。故に一分一秒すら惜しいく口を尖らせた。
「何故止めますか、半兵衛殿。貴殿とて此処が正念場だとお判りでしょう」
「だからこそです。秀吉様が心から天下を欲するなら横からの言葉は必要ありません」
頭を抱える秀吉を二人の軍師は口を閉ざして見守る。だが突如として羽柴兵が帷幕に飛び込んできて静寂を壊す。
「申し上げますッ!!毛利軍が動き出しましたッ!!旗の動きから見るに我らの陣に向かっているようですッ!!」
その報告は毛利軍の攻勢であった。
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