集え勇士よ

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安土城攻勢が始まる二日前、城内は信長が死んだ事で周章狼狽といったばかりに織田兵が慌てふためき私財を持って逃げ出そうとする者も多かった。 そして政務の為にたまたまそこに居合わせていた藤孝も動揺のあまりに口をあんぐりと開けて立ち尽くしてしまう。 「……光秀、本当に事を起したかッ」 光秀本人から前もって調略を受けていた彼にとって、反乱因子の存在を知っていながら何も行動をしなかっただけに胸が締め付けられてしまい下唇を噛み締める。 「いや、憂いている暇などない。亡き上様に顔向けする為に御親族様だけは何としても救わなければ」 気を引き締め直す藤孝は、まず織田の親族の安全を確保すべきだと判断して信忠の正室である松姫の元へ駆けつけた。 だが松姫の居る戸を開けて眼に映った姿を見て驚愕する。彼女は小さな具足を着込んで薙刀を携えており、侍女たちも同じく刀や鉄砲を持たせて完全武装を整えていたのであった。 「松姫様!?その恰好は一体……?」 「義父上様の死は聞きましたの。ならば敵が来る前に戦支度を整えているのです」 「戦支度!?」 あろう事か、松姫は逃げ出すおろか戦の準備までしているという発言にたじろいでしまう。 「ちゃんと具足は着れましたか?」 「はい、奥方様。造って下さった職人殿には御礼が必要の出来栄えですの」 「のっ……の、濃姫様ッ!?何故に貴方様まで具足を!!」 更に奥からは、亡き信長の正室である濃姫が同じく具足を着込みながら姿を現して思わず頭を抱えた。 逃がすどころか本人たちが徹底抗戦の構えをその身で見せつけており、逃げ出している家臣とは打って変わって勇ましい女衆に参ってしまうほどである。
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