集え勇士よ

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「お帰りなさいませ、信忠様」 「只今戻りました、松姫」 城に入った信忠は松姫との対面を果たした。 松姫の手足は土や泥が付いており、微かに血も付いている。そして信忠がそれを見ている事を悟って安心させるように優しく微笑む。 「この血は怪我をされた者を手当てした際に付いてしまっただけですの。戦場で松にはそれぐらいしか出来ませぬので」 この安土城防衛戦に於いて織田軍は明智軍の猛攻の前に一兵たりとも息を休める暇がなかったのである。 故に松姫もたとえ小さくとも自身の出来ることをやろうと行い、負傷兵の手当てや握り飯を配ったりと走り回り、汚れを洗おうとも籠城戦は水の確保は死活問題となる為に気に留めなかった。 だがなにより松姫にとって付いたそれらは、己が意志で戦ったものであるので誇りにも思えている。 この果敢なる姿を見て、信忠は更に惚れ込み思わずにやけ面がでてしまいそうになった。しかしずっとこの時間が続けば良いのにと思っていたら後ろから松姫の側近である望月千代女が彼を蹴り上げる。 「なっ……何をなさいますか、望月殿」 「黙れ、斥候の報告が来た。軍評定に戻れ」 「そうですね、帰ってからゆっくりとお話をしましょうですの」 明智軍の動きを探り戻って来た千代女は、何度も信忠の尻を蹴りながら急かして松姫からひっぺ返した。 嫉妬を隠す事無く暴力を添えて行動する姿は端から見ればとんでもない事だが、発散させないとあっさりと命まで取られかれない気がして其の儘にする。 そして控えめに手を振る松姫に対して信忠は無邪気な子供の様に大きく手を振りながら軍議へと向かう。
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