集え勇士よ

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信忠は堂々と上座に座して一息付く。そして家臣たちを見据え喉を鳴らした。 「藤孝、明智軍の動きを教えてくれ」 「御意、まず安土城攻撃をしていた明智軍ですが瀬田川を越えて我らを迎え撃つ算段のようです」 軍評定を始めた藤孝は地図を広げ、瀬田川を指し棒で位置を標す。 瀬田川は大津で琵琶湖から流れ出る淀川の名称であり、琵琶湖の唯一の河川である。 そして最大の障害と成り得るのは、すぐに京へ向かうにはそこに架かる瀬田大橋を渡るしかなく、織田軍は不利な渡河戦を強いられるという事になる。 「ならば進言致します。明智軍が防備を強固にする前に我が蒲生勢500名が先んじて破壊工作をするのは如何でしょうか?」 蒲生氏郷は明智軍が川に土塁など積み上げる時間を与えてしまったら危険だと危惧しての言葉であったが、藤孝は渋い顔をしながら首を横に振る。 「既に明智軍は堅牢な陣を構成させております、下手に兵を割けば各個撃破される恐れが」 「あれはちょっとやそっとで用意できる土塁や櫓の材木の量じゃないわね」 千代女が藤孝の言葉を付け足すように言う。 事実、安土城から撤退した明智軍の次なる行動は迅速であった。 坂本城に六年掛けて地道にかつ着実に増やしてきた戦の物資は、これを機に開放して瀬田川に堅固な陣地を構築させてみせる。 「川の向こうには柵に櫓に土塁に諸々か……単純な力攻めでは逆に喰われかねんな」 そもそも渡河戦になれば攻め手側が圧倒的に不利となる。 渡河する兵は必然的に敵の射撃攻撃に晒される事となり、馬を用いた機動戦闘は防がれ犠牲は計り知れないのだ。
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